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ライフサイエンス社の医学雑誌「治療学」2008年3月号に分子栄養学三石理論について執筆しました。


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ぼやき先生のぼやき …その2

▼  酵 素 の 話   ▼

エンザイム

相変わらず、一部の人に酵素食品のサプリメントが人気のようだな。
30年以上前から細々と売られてはいたが、ここ数年さらに根を広げているらしいんだ。

まあ、トンデモ説を唱えている医者の本がベストセラーになっているというのだから、仕方のないことかもしれん。

そういえば、その医者は酵素のことをわざわざ〈エンザイム〉とカタカナで呼んでいるようだが、「カタカナ食品よりもひらがな食品を」などとノーテンキなことを言っている人たちの非難の対象にならんのだろうか?

冗談はともかくとして、多くの人がありがたがっている〈酵素〉とは何だろう。
酵素食品をありがたがっている人たちは、いったい、酵素がどういうものか知っているのだろうか。

知らずに人にすすめれば《迷惑な善意の押し付け》だし、知ってて勧めれば《詐欺》だと思うんだがな。

少し考え直してみたらどうだろう。

触媒と酵素

生き物の世界を離れると、触媒(しょくばい)といわれるものが酵素だといえる。だから、生き物の世界に限られると〈生触媒〉となる。

では〈触媒〉とはなんだ?

触媒は化学反応のスピードにかかわるけれど、それ自体は変化しないものということになっているんだな。
多くの化学反応は、高熱を与えたり高圧を加えないと進まないのさ。

例えば、角砂糖をマッチの火で燃やすことは難しい。これは、マッチの火では温度が低すぎるんだな。でも、そこにタバコの灰をまぶしてやると燃えだすというんだ。

アルコールが燃えるとき、アルコールランプでは高熱なのに白金カイロでは程良く暖かいのを知っているだろう。カイロでは、ランプより低い温度で燃えているということになる。

これは白金カイロの石綿部分には白金、すなわちプラチナの粉がついているからなんだ。

角砂糖やアルコールは、タバコの灰やプラチナがあると低い温度でも燃えるんだな。このときのタバコの灰やプラチナが、触媒ってわけさ。

さて、ヒトの体内は、ほぼ37℃で一気圧だ。
こんなぬるい環境で、食べたものが血や肉になるのは実に酵素のおかげなんだな。

代謝

からだの成分は、スピードの差こそあれ日々更新している。からだは、古いものを壊し新しいものを作って交換しているんだ。

これが〈代謝〉ということさ。昔は新陳代謝といっただろう。陳には古いという意味もあるんだな。

この代謝という化学反応を司っているのが、生触媒ともいわれる酵素だ。酵素という名の〈タンパク質〉なんだな。

そして、タンパク質以外の酵素はないから、それは肝に銘じて欲しい。

代謝の意味が分かれば、それが止まることは死を意味することも分かるんじゃないかな。ならば、いのちを司っているのが酵素だ、といえないこともないだろう。

ということで、生き物にとって酵素がとても重要な物質だということが、よく理解できる。

もちろん、その酵素はわれわれの体内で必要なときに必要なだけ合成されるのさ。そしてその酵素の作り方、すなわち設計図は〈遺伝子〉にあるんだな。

遺伝子

では、遺伝子はどこにあるか?

遺伝子は、からだの細胞一個一個の〈核〉の中の〈DNA〉という物質にあるんだ。

長い二重ラセン構造をもつ縄ばしごのようなDNAは、〈ヒストン〉という糸巻きのようなタンパク質に巻き付けて保管されている。これが23対ある〈染色体〉だ。
これをほどいていくと遺伝子があるということさ。

遺伝子には遺伝情報がある。そんなことは当り前だって。では、その遺伝情報のほとんどは、タンパク質の作り方だと言われたらどうかな?

つまり、遺伝子DNAにはアミノ酸のつなぎ方が記されているのみということさ。
親から受け継ぐ遺伝情報はタンパク質の作り方だけといえるんだな。

これにはビックリしたんじゃないかい? 
驚きといっしょに、これも肝に銘じてもらえれば嬉しいんだがね。

しかし、今さら「アミノ酸がつながるとタンパク質になるんだ!」などと感心しないでくれ。アミノ酸がつながったものがタンパク質で、タンパク質を分解するとアミノ酸になるんだ。

余談だが、アミノ酸にはタンパク質になれるものとなれないものがあるんだ。タンパク質になるアミノ酸は20種類が決っているのさ。
もちろん必須アミノ酸はこの20種類の中に入っているんだがね。

遺伝情報

さて、ビックリした遺伝情報の話の続きだ。
DNAの構成要素の中には4種類の塩基があるんだが、そのうちの3種類の並び方が1セットで暗号になっているんだな。

地球上の生き物の祖先をさかのぼると、たった一個の生命にたどり着くというんだ。これは、地球上の全ての生き物の遺伝暗号は同じだ、ということが根拠になっているのさ。

例えばDNAから読み取ったRNAの暗号が〈アデニン・ウラシル・グアニン(AUG)〉という並びの塩基だと、それは地球上の全ての生物で〈メチオニン〉になるってことなんだ。

「メチオニンって何?」とは聞かないでくれ。
遺伝子DNAにはアミノ酸のつなぎ方が書いてあるということは、肝に銘じたはずだから。
つまり、3つの塩基で1つのアミノ酸に対応しているということなんだ。

核内のDNAから暗号を読み取って、核外へ遺伝情報を運び出すのはRNAだった。そのRNAから暗号を翻訳し、酵素タンパクを合成するのが、雪だるまのような形をしたリボゾーム

このタンパク合成の現場は、核外とはいえ細胞内にある。
そして、出来上がった酵素の働き場のほとんどが、細胞膜を含めて細胞内なんだ。

酵素はタンパク質の一形態

ひとくちに酵素といっても、その種類はとても多い。
代謝の数は3000とも4000ともいわれているのだから。

ここで強調しておきたいのは、酵素という名の物質が一つだけあるわけではないということなんだな。

大ざっぱに言えば、酵素の種類は代謝の数だけある。しかも、他人はもちろん、親子でも酵素の形は微妙に違うというんだ。

同じ代謝を司る酵素だとしても、そのアミノ酸配列は一人一人違うということなのさ。なぜなら、全く同じDNAを持つ人はいないからなんだな。

からだは、その構成成分としてたくさんのタンパク質を必要としている。しかし、酵素のことを考えれば、タンパク質の必要量はそれだけではないことが分かるってものさ。

代謝に異常が起これば健康が損なわれることは、自明の理。タンパク不足ではどんな病気になっても不思議ではない、という理由はここにあるんだな。

ここまで理解したうえで、酵素食品を食べるという意味を考えてみよう。

無意味なサプリメントの酵素食品

酵素はタンパク質であり、基本的にそのままでは吸収できない。
タンパク分解酵素でアミノ酸またはアミノ酸が数個つながったペプチドにまで分解されて吸収されるだろう。

アミノ酸に分解された酵素は、既に酵素ではないぞよ。
これは、当たり前のことだ。
ということは、酵素にこだわる意味はないということにならないかい?

そうなると〈酵素食品〉は、酵素という名前を付けてはいるが酵素の働きに期待しているのではないのだろうか?

だいたい、動物だろうが植物だろうが菌類だろうが、生き物を食べれば必ず酵素が付き物だ。
そこに熱を加えて調理すれば、その酵素は失活するし、生で食べても前述の通り失活する。単にタンパク質という物質だ。

酵素を多く含むから発酵食品がからだに良いという人もいるらしい。
発酵食品、大いに結構。しかし、その酵素に何かを期待するのは馬鹿げているってもんだな。

それとも〈分泌酵素〉的な役割を期待しているのだろうか?

分泌酵素は細胞外で働くもので、消化酵素がある。胃腸薬など消化剤に入っているものだな。
それなら、酵素食品を食べるよりも消化剤を飲んだ方が手っ取り早いんじゃないかい?

いったい、何をありがたがってサプリメントとして酵素食品を食べるのか、理解に苦しむってものだな。
〈潜在酵素〉なんてわけの分からない言葉をもち出したりする人もいるようだが、そんなもの鼻で笑っておしまいさ。

おまけ

 少々苦しいけれど、酵素を料理にたとえてみようと思う。

 親から譲り受けるのはDNAだった。
 これを料理の本と考えてみようか。
 この本には料理の作り方が書いてあるはずだが、ちょっと変わっているんだ。

 例えば卵焼きの料理法のところには、卵を入れるボールとかき混ぜるための箸、そして焼くために必要なフライパンの作り方が書いてあるだけなんだな。

 つまり、親からもらったのは「卵焼き」でないだけでなく、その材料の「卵」でも無いってことさ。

 料理をもらったのではなく、調理器具の作り方が書いてある料理の本をもらっただけなんだ。

 料理を食べようと思ったら、料理の材料はもちろん調理器具も無くてはならない。
 そして、卵が卵焼になっても調理器具に変化は起きない。

 つまり、調理器具こそ酵素なのだ。そして、それはタンパク質だ。

 ならば料理をしなくても食べられるものを食べれば良い、などと言わないでくれ。これは例え話なのだから。

2010年10月

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