細胞周期-1 媚多眠氏:前回は「p-53」というガン抑制遺伝子の話でしたが、如何でしたか? 迷ホラ吹き:おお、ガーディアンエンジェル! 媚多眠氏:まだ言ってる。よほど気に入ったんですね。 迷ホラ吹き:へへ、それが活性酸素にやられて、増殖を抑えている遺伝子部分にくっつけないことが良くないということでした。 ぼやき先生:もう少し正確に言うと、P-53タンパクが活性酸素にやられて抑制部位に結合できないとしても、また新しく同じものを作れば問題はない。 迷ホラ吹き:なるほど、そういうことになりますね。 ぼやき先生:しかし、P-53タンパクの遺伝子部位、つまり「p-53」自体が活性酸素にやられてしまうとP-53タンパクを作れなくなる、または抑制部位に結合できない形のタンパクしか作れなくなり、最もまずいことが起こるだろうということなんだな。 媚多眠氏:作品のタンパク質は壊たら作り直せばいいけど、設計図のDNAが壊れるのはまずいって話ですね。 迷ホラ吹き:そりゃあ、おっしゃる通りだ。活性酸素対策は大事だと肝に銘じておきますよ。 媚多眠氏:では、いよいよp-53がらみの細胞周期の話をお伺いしましょう。 ぼやき先生:前回、少しだけ出てきたが、増殖している細胞ではDNAの合成から細胞分裂までの一連の過程が繰り返されることになるわけなんだ。 迷ホラ吹き:一連の過程? ぼやき先生:そう。一年が春、夏、秋、冬と四つの時期に分かれているように、細胞周期も四つに分かれているんだ。 媚多眠氏:つまり、一つの細胞周期が終わればまた新たな周期が始まるのですが、一周期は四つの時期に分けることが出来るということですね。 迷ホラ吹き:なるほど。 ぼやき先生:例えば、細胞が成長してDNAが合成される時期を「S期」といい、その細胞が分裂する時期を「M期」という。S期のSは合成という意味の「synthesis」の頭文字、M期のMは分裂という意味の「mitotic」の頭文字さ。 迷ホラ吹き:「シンセシス」のS期に「ミトティック」のM期? そんなこといきなり言ったってダメですよ。前回は「G1期」とか「G2期」なんて言ってたし・・・。 ぼやき先生:それは、M期・S期のすき間に入る時期ということだな。 媚多眠氏:それこそ「すき間」という意味の「gap」の「G」です。『最近、年取ったせいか若い人の考えにギャップを感じる』なんて言いませんか? 迷ホラ吹き:あー、その「ギャップ」の「G」ですか、それは分かり良い。先生、大丈夫ですか? ぼやき先生:ん・・・? 迷ホラ吹き:えへへ・・・。 |
細胞周期-2 媚多眠氏:ギャップと言ったって単なるすき間じゃありませんから、まだまだお若い先生にそれぞれの時期を説明していただきましょうか。 ぼやき先生:なんか、ごまかされたような気もするが、まあイイか。 迷ホラ吹き:お願いしま〜す。 ぼやき先生:周期というんだからどこから始めてもいいんだが、分裂した後の細胞ということでM期の後のG1期からいこうか。 媚多眠氏:「M期」→「G1期」→「S期」→「G2期」→「M期」→・・・という回転ですね。 ぼやき先生:実は、M期終了から次のM期開始までのあいだを「I期」というんだ。 媚多眠氏:「interphase」の頭文字をとったもので、「あいだ」と書いて「間期」とも言いますね。 迷ホラ吹き:「あいき」が「かんき」? う〜ん、ゴチャゴチャしますねぇ。もうちょっと分かり易く説明してもらえませんか? ぼやき先生:すまんすまん、実はこれを先に言えばよかったんだ。 迷ホラ吹き:はいはい、まず「M期」と「間期」ね。 ぼやき先生:M期は分裂する時期だから見た目も変化が分かりやすいだろう。 迷ホラ吹き:見たことありませんが、きっとそうでしょうね。 ぼやき先生:間期は顕微鏡で見てもあまり変化が起きず、細胞が大きくなるだけなんだな。 媚多眠氏:細胞の中の変化ということですね。 ぼやき先生:そう。 媚多眠氏:そして、その間期のなかに「G1期」「S期」「G2期」があるということです。間期は、細胞が分裂するために成長する時期だとも言えるわけです。 迷ホラ吹き:なるほど、わかりました。そうすると当然、その「間期」とやらの時間は分裂する「M期」より長いんでしょうね。 ぼやき先生:その通り。平均的なヒトの細胞では間期が約23時間、M期が約1時間ということだ。 迷ホラ吹き:一周期がちょうど1日で、細胞周期のほとんどが間期ということなんですね。 ぼやき先生:真核生物の細胞分裂速度は、その間期の中の「G1期」によっているんだな。S期、M期、G2期の長さはどの細胞でも違いはないということなんだ。 迷ホラ吹き:ふ〜ん。 媚多眠氏:そのG1期は、細胞分裂の指令がくだった状態だと考えていいんじゃないでしょうか。 ぼやき先生:そうだな。DNAの複製に備えていろいろな準備をする期間がG1期ということなんだ。 |
細胞周期-3 迷ホラ吹き:ギャップとは言っても、単なるすき間ではなく大切な準備期だということですね。 媚多眠氏:そして、DNA複製の準備が整うとS期に入るわけです。 ぼやき先生:ここでは「DNAポリメラーゼ」という「DNA合成酵素」が働くわけだが、前回、DNAは三段階のコイル巻きになって「染色体」を形作っているなんて話をしただろう。DNAを複製して合成するときは当然、その凝縮した染色体の構造をほどかねばならん。 媚多眠氏:凝縮した染色体の状態を緩めて、DNAを縄梯子状の二本鎖にするということです。 ぼやき先生:それがさらに一本鎖に解離してそれぞれが鋳型となり、ヌクレオチドが相補的に結合して、最終的に2つのDNAが作られるということさ。 媚多眠氏:ヌクレオチドって覚えていますか? 迷ホラ吹き:さあ。 媚多眠氏:核酸素子のことで、塩基と糖とリン酸で出来たDNAの部品ですよ。 迷ホラ吹き:そういえば、そんなものがありましたっけねえ。 ぼやき先生:梅に鴬ってことさ。 迷ホラ吹き:・・・? ぼやき先生:組み合わせが決まっている、ということ! 迷ホラ吹き:・・・? 媚多眠氏:しっかりしてください。4種の塩基とその相補的な結合関係を覚えていたじゃないですか。そして塩基は4種類あるのでヌクレオチドも4種類になると。 迷ホラ吹き:あ〜、そうでしたね。ヌクレオチドのせいで塩基まで忘れちまうところでしたよ。 媚多眠氏:で、思い出しましたか? 迷ホラ吹き:ごまめの歯ぎしり青菜に塩、取らぬ狸の皮算用! 媚多眠氏:何ですか、それは? 迷ホラ吹き:思い出したのが嬉しくて、先生に対抗してことわざを知ってるだけ言ってみました。 ぼやき先生:ははは、ほとんど迷ホラさんの心境のようだがな。 迷ホラ吹き:てへ、では思い出したことを。 媚多眠氏:そうです。そこまで思いだせば、先程の先生の話は理解できますか? ぼやき先生:一を聞いて十を知れ! 迷ホラ吹き:う〜〜ん、木に竹をつぐ!! 媚多眠氏:・・・・・。 |
細胞周期-4 ぼやき先生:仕方がない、もう一度説明しよう。 媚多眠氏:ことわざはもう、けっこうですからね! お願いしますよ、ホントに。 ぼやき先生:わ、分かっておる。え〜、DNAを複製するということは、同じ塩基配列を持つ二本鎖のDNAを2つ作ることになる、ということは分かるだろう? 迷ホラ吹き:分かります。 ぼやき先生:さっきはその作り方を言ったのさ。 迷ホラ吹き:DNAは二本鎖なのに、一本鎖だの解離だの鋳型だのと、難しい言葉を並べてたことですね。 ぼやき先生:そう。まずはその二本鎖のDNAだが、これは塩基の結合でつながっているということだろう。その塩基部分の結合をはずしていけば、一本鎖が2本できることになる。 媚多眠氏:一本鎖に解離ということですよ。 迷ホラ吹き:なるほど。 ぼやき先生:その一本鎖のDNAそれぞれが、新しいDNAの鋳型になるということなんだな。 迷ホラ吹き:鋳型ね・・・。ってことは新しく出来たDNAの二本鎖のうちの片方の鎖は、必ず元の古いものを使っているということですね。 ぼやき先生:その通り。複製といったって、元のものから全く新しいものを作って2つになるわけじゃないんだな。それで、これを「半保存複製」というんだ。 迷ホラ吹き:なるほどねぇ。 ぼやき先生:因に二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになるといったって、完全に分かれてしまうわけじゃないんだ。 媚多眠氏:そうなんですか。 ぼやき先生:詳しい説明は避けるが、二本鎖DNA上には複製の開始場所がいくつもあって、一度にいくつもの場所から複製が始まるんだな。その開始場所を「複製起点」なんて言うんだがね。 迷ホラ吹き:へえー。 ぼやき先生:そこで無事DNAの複製が完了すると「G2期」に進み、分裂する「M期」に進むということだ。 媚多眠氏:G2期は、分裂に備えて細胞質が大きくなる時期ですね。 迷ホラ吹き:ガーディアンエンジェルが出てきませんでしたけど・・・。 ぼやき先生:忘れたわけではないんだ。細胞周期を理解してからの方が話が分かりやすいと思うのでね。 |