分子矯正医学-1 媚多眠氏:さて、今回から待望のビタミンの話をお伺いする予定です。 ぼやき先生:その前に、ざっと栄養素についての知見を整理しておこう。 迷ホラ吹き:栄養素についての知見? ぼやき先生:例えば、人に必要な栄養素としてはどんな物質が何種類くらいあるか、その役割は何かってことだな。 迷ホラ吹き:五大栄養素なら知っていますよ。 媚多眠氏:おお、それは心強いですね。 迷ホラ吹き:タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルでしょ? ぼやき先生:どうせなら、脂肪は「脂質」、炭水化物は「糖質」と言って統一したほうが良いだろう。 迷ホラ吹き:あら、炭水化物って糖質のことだったんですか。 ぼやき先生:栄養素としてなら、そういうことなんだな。 迷ホラ吹き:で、必要な栄養素がその5種類だって言うんじゃないでしょう? 媚多眠氏:そりゃあ、そうですよ。その五つは単なる分類ですからね。 ぼやき先生:朝倉書店の「最新栄養化学」という本によると9種類の必須アミノ酸、2種類の必須脂肪酸、13種類のビタミン、22種類のミネラル、そして糖ということで46種類、水を入れれば47種類あるということになっている。 迷ホラ吹き:47種類ってのは少ないような気もしますが・・・。 ぼやき先生:最低必要な物質がということだから、そんなものだろう。 媚多眠氏:その栄養素には3つの働きがあると言えるんですが、分かりますか? 迷ホラ吹き:まずは、エネルギー源になるってことじゃないっすか? 媚多眠氏:そうですね。あと2つは? 迷ホラ吹き:はて・・・? 媚多眠氏:食べたものは血となり肉となり、なんて言いませんか。 迷ホラ吹き:なるほど、身体の成分になるんですね。 媚多眠氏:そう、そして最後の1つは、生命活動を行ううえで必要な化学反応に関与する、ということです。 ぼやき先生:つまり代謝に関わるということさ。 迷ホラ吹き:ハハハ、そりゃ最も大事なことでした。代謝を忘れてはいけませんね。 媚多眠氏:まとめてみますと、 |
分子矯正医学-2 ぼやき先生:その中のどれがビタミンの働きか、分かるかな? 迷ホラ吹き:「代謝に関わる」ってのに決まってます。酵素やら助酵素やら出会いの確率、なんてのを勉強してきたぼくをなめちゃあいけませんよ。 ぼやき先生:それは失敬。 媚多眠氏:ついでに言っておけば、ビタミンの働きはそれだけです。エネルギー源になるのは主に糖質と脂質で、身体の構成成分になるのは主にタンパク質と脂質とミネラルですからね。 ぼやき先生:つまりビタミンは、身体の構成成分にもならないし、エネルギー源にもならないが、生命活動に必須の栄養素とも言えるわけなんだな。 迷ホラ吹き:家庭科の授業だったかなあ、ビタミンAが足りないと鳥目になるとか、ビタミンCが足りないと壊血病になるとか、ビタミンB1が足りないと脚気になるなど勉強した記憶があります。 媚多眠氏:ビタミンと欠乏症の関係ですね。 ぼやき先生:今でこそ壊血病、脚気、ペラグラ、悪性貧血、くる病を五大欠乏症なんて言うんだが、ビタミンが発見される前までは風土病とか伝染病と考えられていたんだ。 媚多眠氏:ビタミンの発見は、ほとんどが20世紀の出来事なんですよね。 迷ホラ吹き:ふ〜ん、まだ100年も経ってないんだ。 ぼやき先生:ビタミンが足りないと病気になるという発見からは、病気にならない人にビタミン不足はないと言う単純な考えが出てきて、今でもそう考えている人は多いんじゃないかな。 媚多眠氏:「所要量」というのがあって、それはほとんどの人が1日の必要量を満たすのに十分な摂取量ということになっていますが、これは欠乏症を予防する観点から決められたものですね。 迷ホラ吹き:ってことは、所要量ってのはビタミン欠乏症にならないための目安の量だと考えればいいのかな。 媚多眠氏:そんな感じですね。 ぼやき先生:所要量でのビタミンの働きを「生理作用」、その数倍から数十倍のビタミンを摂取したときの働きを「薬理作用」と言ってわけることもある。 媚多眠氏:例えばビタミンCの所要量は100mgということですが、10倍から100倍のビタミンCをとると高脂血症が改善されたり、眼圧が下ったり、免疫力が上がるなんて話があるということですね。 迷ホラ吹き:10倍から100倍というと、1gから10gですね。それは生理作用と薬理作用では、ビタミンの働き方が違うっていうことですか? ぼやき先生:基本的メカニズムは同じさ。 媚多眠氏:ただ、薬理作用というのは生体内に薬を投与したときに起こる生体機能の量的変化と言うことになっているので、矛盾がありますね。 迷ホラ吹き:何が矛盾しているんですか? 媚多眠氏:薬理作用ってのは薬に対していうことですよ。ビタミンは薬ではなく栄養素じゃないですか。薬に副作用はつき物ですが、基本的にはビタミンに副作用はありません。 迷ホラ吹き:なるほど、栄養素といったり薬といったりするのはヘンですねぇ。 |
分子矯正医学-3 ぼやき先生:まあ、お役所的見解というところかもしれんな。 媚多眠氏:ライナス・ポーリング(1901-1994)は1984年の来日講演で「ビタミン必要量は栄養学者が決めるが、最も良い健康状態をたもつにはどれだけの量が必要かは書かれていない」なんてことを述べているようですね。 迷ホラ吹き:ポーリングって聞いたことあるような気がします。 ぼやき先生:「化学結合論」でノーベル化学賞を受賞した天才科学者で、アメリカでのメガビタミン主義運動の旗手といえる人物なんだな。 媚多眠氏:1970年4月、そのポーリングのビタミンCの最適摂取量をどう思うかという手紙に「ビタミンCについて、医学界は一般の人々を誤った方向に導いている、と最初から感じていました。」と返事を書いたのが、アルバート・セント=ジェルジ(1893-1986)です。 迷ホラ吹き:どう間違ったんでしょう。 媚多眠氏:その手紙は「ビタミンCを食物からとらないと壊血病になりますが、そこのところを、壊血病にならなければ大丈夫だ、と医学界はいってきたのです。これは非常に重大な誤りだと思います。壊血病は、ビタミンC不足の最初の症状ではなくて、死直前の症状なのです。完全な健康のためには、もっと、大量が必要です。」と続いているそうです。 ぼやき先生:セント=ジェルジに言わせれば、医学界はビタミンの多様性を理解していなかったということなんだろうな。 迷ホラ吹き:もしかしたら、セント=ジェルジって人もノーベル賞とってる人? ぼやき先生:御名答。彼は、細胞呼吸の研究でノーベル医学生理学賞を受賞した生化学者なんだが、ビタミンCの発見者として有名なのさ。1932年のことなんだがね。 迷ホラ吹き:へぇ〜。アルバート・セント=ジェルジ、覚えておこうっと。 ぼやき先生:さてポーリングの話だ。彼は、ビタミンの大量摂取により生命のための必要な物質の体内濃度を変動させれば、よい健康状態を維持し疾患を治せるという「分子矯正医学」を提唱し、体内物質分子の調整が今後の医学の進む道だとしたんだな。 迷ホラ吹き:ポーリングは「ぶんし・きょうせい・いがく」でメガビタミンってことですね。「分子矯正医学」にも「分子栄養学」と同じ「分子」がついていますね。 ぼやき先生:分子栄養学の分子は「遺伝子分子」の意味だから、分子矯正医学の分子とは違うと言えるだろうな。 媚多眠氏:日本でのメガビタミン主義の旗手は、分子栄養学創始者である物理学者、三石巌だということになるわけですが、そこに到達した過程はポーリングとはずいぶん異なっていたということなんですね。 迷ホラ吹き:経験的か理論的かってことでしたっけ。 ぼやき先生:うむ、前回話した通り、パーフェクトコーディング理論がメガビタミンを導き出すということなんだな。 |
分子矯正医学-4 迷ホラ吹き:な〜るほど。だから説得力があるわけですね。 ぼやき先生:さらに彼は、その価値を医学とか医療でなく一般人のものとする必要性を説くんだ。 迷ホラ吹き:どういうことですか? 媚多眠氏:自分の健康は、自分で管理し自分で守るべきものだということですよ。 ぼやき先生:メガビタミンはあくまでも栄養のことなんだから、医者に口を挟まれるのは大きなお世話と言ったニュアンスを含むということさ。 迷ホラ吹き:そんなこと言っちゃっていいんですか? ぼやき先生:三石巌は、理論は机上の空論ではなく実践して意味があると言いたかったのさ。一市民がメガビタミンの効用を理解して実践することの必要性を説いているんだ。つまり、三石巌は一市民にも学習を要求しているともいえるんだな。 迷ホラ吹き:はいはい、分かってますよぉ。でも、難しいんだもん。 媚多眠氏:そんな泣き言をこぼしながらも、いいせんいってるじゃないですか。 迷ホラ吹き:そうですか? へへへ、でも難しい勉強のあとは、楽しみもあるんです。 媚多眠氏:何でしょう? 迷ホラ吹き:ほのかに香るリンと冷やした「真澄 純米吟醸 別撰金壽」をワイングラスに注ぎ、マーラー作曲の第3交響曲の終楽章に耳を傾けながら、ゆっくりとしみじみやるんですよ。 媚多眠氏:愛に溢れ、滋味豊かで人生に肯定的な美しい曲ですから、聴き終わったあとまた頑張ろうって気が起きることでしょう、きっと。 迷ホラ吹き:ヘへ、また飲もうってね。 媚多眠氏:あらら、二日酔いになったら意味がないですよ。 迷ホラ吹き:その時はイチョウ葉エキスの濃いやつをお湯割にして飲むと、すぐに頭も身体もスッキリするんですよ。苦いのが欠点ですがね。 媚多眠氏:やる気はどうですか? 迷ホラ吹き:も、勿論、今日も難しい話を聞こうかなって・・・。 ぼやき先生:三石巌はそういうやる気のある一市民のために、分かりやすい模型を用意してくれたんだな。 迷ホラ吹き:モケイ、ですか。 ぼやき先生:生化学や医学や薬学の素養が無くてもメガビタミン主義を正しく把握し、効用を理解できるように考案されたものなんだが、その名は「カスケードモデル」というんだ。 迷ホラ吹き:カスケード、モデル? ぼやき先生:カスケードとは滝のことさ。 媚多眠氏:滝といっても日本に多いドドーッと一気に流れる滝ではなくて、階段状のところを流れる「段々滝」のことです。 迷ホラ吹き:段々滝がメガビタミン主義の効用の理解に、どうやって役立つんですか? ぼやき先生:カスケードモデルは、身体の中でのビタミン利用状態を水の流れにたとえよう、という発想から生まれた模型なんだな。 |