B細胞と抗体-1 媚多眠氏:前回はリンパ球の話で、最後にはキラーT細胞が標的細胞を排除する方法について少し詳しくうかがいましたが、如何でしたか? 迷ホラ吹き:T細胞は、樽の側板みたいなパーフォリンをいくつも注入して相手の細胞膜に穴を開けるってことですね。 媚多眠氏:今回はもう一つのリンパ球の武器についてです。 迷ホラ吹き:今度は飛び道具か。 媚多眠氏:はい、抗体は液性免疫の主体となる物質です。細胞性免疫でも液性免疫でも、その武器は両者ともタンパク質製ということですね。 ぼやき先生:さて、B細胞が発射するそのタンパク質製の飛び道具「抗体」とはどんなものかということだが、実はB細胞受容体そのものなんだな。 迷ホラ吹き:!? ぼやき先生:リンパ球は抗原を捕まえるアンテナみたいな受容体を持っているなんて話をしたが、B細胞はそれを飛び道具として使うってことさ。もともと抗原を捕まえるものなんだから、ピッタリというものだろう。 迷ホラ吹き:確かに。おっしゃる通りで! ぼやき先生:ここでまた、形の話をしようと思うんだが良いかな? 迷ホラ吹き:ヘイヘイ、形が大切だってことは何回も出てきましたから、覚悟してますよ。 媚多眠氏:そうですね。抗体分子の立体構造ということです。 ぼやき先生:大まかにいうと、抗体はY字型をしているんだな。 迷ホラ吹き:へぇ〜、なんか分かりやすい形ですね。 ぼやき先生:そして、そのY字型の2本のウデの上部2箇所で抗原を捕まえるんだ。 迷ホラ吹き:2本のウデで挟むんですか? ぼやき先生:いやいや、ウデの先端がそれぞれ特異な形になっていて、そこにピッタリはまる形の抗原だけを捕まえるのさ。 媚多眠氏:一つの抗体に、抗原を捕まえる部分は2箇所あるということですね。 迷ホラ吹き:ザリガニの2本のハサミみたいなものかな? ぼやき先生:まあ、そんな雰囲気だ。 迷ホラ吹き:鍵と鍵穴といえば、酵素の話の時にも出てきましたね。 ぼやき先生:うむ。 媚多眠氏:形に対してゆらぎがないというか、曖昧さがないということですよ。 迷ホラ吹き:ピッタリはまっちゃうってことですね。 ぼやき先生:そう。 |
B細胞と抗体-2 迷ホラ吹き:確かに鍵と鍵穴みたいですね。 媚多眠氏:そういう厳密なものがB細胞表面に「B細胞受容体」としてあり、いざというときはそれを「抗体」として発射するということですね。 迷ホラ吹き:ということは、B細胞にはたくさんの種類の異物に対応できる受容体が付いているってことですか? ぼやき先生:いや、一つのB細胞には1種類のB細胞受容体だけさ。 迷ホラ吹き:・・・?・・・。 ぼやき先生:抗原になるものはたいがいタンパク質のかけらだから、ほぼ無数にあると言って良いだろうな。 迷ホラ吹き:じゃあ、B細胞はどうすんのサ? 媚多眠氏:B細胞の数だけ受容体の種類があるんですよ。 迷ホラ吹き:なぬ〜! 媚多眠氏:そういうことになりますね。 ぼやき先生:受容体の種類と言っても、軸の部分とウデの部分は分けて考えなくてはいけないんだな。ここではY字型のウデの上部2箇所が違うだけという話なんだがね。 媚多眠氏:ザリガニで言えば、しっぽや胴体でなくハサミだけが違うってことです。 迷ホラ吹き:抗原にくっつく部分だってんですからそうなんでしょうが、それだと一つのB細胞が合成する抗体だけじゃ数で負け戦になりそうですねぇ。 媚多眠氏:ここで、T細胞の話を思い出して下さい。 迷ホラ吹き:ヘルパーさんですか? 媚多眠氏:そうです。 迷ホラ吹き:おお! 分身の術か!! 媚多眠氏:そういうことです。勝てそうでしょ? 迷ホラ吹き:な〜るほどね。 媚多眠氏:B細胞は分身の術を使ってじゃんじゃん増え、抗体をどんどん発射し、抗原を次々に捕まえてやっつけるということです。 迷ホラ吹き:分かりましたけど、抗体ってのは単なる物質であって細胞ではないですよね? 媚多眠氏:そうですよ。 迷ホラ吹き:抗体がくっついた抗原はどうなるのかななんて、フとした疑問が・・・? ぼやき先生:そうこなくては話が続かん。疑問を持つのは良いことだな。 |
B細胞と抗体-3 迷ホラ吹き:で、どうして無害なものになるんですか? ぼやき先生:ウム。 媚多眠氏:ウイルスって、細胞の中に入って爆発的に増えるわけですから、細胞の中に入れなければ病気を起こすことが出来ないわけです。 ぼやき先生:ウイルスが細胞に取りつくとき、まずお互いの表面にある特定の物質同士が付着するんだな。抗体はウイルスのその特定の部分にいくつか結合して、細胞に付着できなくしてしまうということさ。 迷ホラ吹き:なるほど。これも形が関係しているといえますかねぇ・・・。 ぼやき先生:そう。その意味で、細菌が出す毒素を中和する抗体なんてのもあるぞ。 迷ホラ吹き:毒にも形があるんですね? ドクロマークみたいになってるとか。 媚多眠氏:そんな訳ないでしょ。 迷ホラ吹き:えへへ・・・。 ぼやき先生:ドクロマークはともかくとして、毒素にはその分子中に毒性を示す部分があり、抗体はその部分を塞ぐなんてことをするんだ。 媚多眠氏:毒の部分を覆い隠したり、ウイルスにくっついて感染を防ぐような抗体を「中和抗体」なんていいます。 迷ホラ吹き:抗原に取りついて病原性や毒性を無くすってのは分かりましたけど、抗原と抗体がくっついたものはどうなるんですか? ぼやき先生:たぶん、マクロファージが食っちまうだろう。 媚多眠氏:オプソニン化というのがありますね。 迷ホラ吹き:オプソニン? ぼやき先生:オプソニン化のもともとの意味は「バターを塗り広げる」という意味だと聞いたことがある。 迷ホラ吹き:何ですか、それは? ぼやき先生:おいしくするってことさ。 媚多眠氏:マクロファージだって、おいしくした方が食べやすいということですよ。 迷ホラ吹き:美食家マクロファージ! ぼやき先生:抗体をザリガニだとするとハサミで抗原を捕まえるわけだが、マクロファージにはしっぽを捕まえる手があるということなんだな。 迷ホラ吹き:へぇ〜、それは面白い! 媚多眠氏:そんな感じですけど、抗体は抗原よりも小さいです。 迷ホラ吹き:じゃあ、ハサミで獲物を持ち上げるというよりも獲物に食いついている感じでしょうか? 媚多眠氏:そうです。そして、マクロファージには獲物に食いついたザリガニのしっぽを持つ手がある、ということなんですね。 迷ホラ吹き:な〜るほどねぇ。 ぼやき先生:良いところに気がついた。こりゃ立派なもんだ! |
B細胞と抗体-4 迷ホラ吹き:そうですか!? ぼやき先生:まったく、その通り。 迷ホラ吹き:いくら美味しくするためと言ったって、パンを食いたいためにバターを塗るんであって、バターだけ食べてもネ・・・。 媚多眠氏:アハハ、食い物の話にはツッコミが鋭い。 ぼやき先生:いやいや、素直に話を聞くだけでなく自分の得意領域に着眼点をもって行くところなんか、たいしたもんだ。 迷ホラ吹き:で、実際のところどうなんですか? ぼやき先生:抗原と結合した抗体は、分子構造に変化が起きるんだ。 迷ホラ吹き:と、おっしゃいますと? ぼやき先生:抗体は細菌などの抗原に結合することによって、マクロファージが捕まえやすい形に変化するということさ。 媚多眠氏:B細胞から発射された抗体のしっぽはツルツルで捕まられないけど、抗原にくっつくとしっぽにギザギザが出てきて捕まえやすくなる、なんて想像してみたらいかが? 迷ホラ吹き:な〜るほど。 媚多眠氏:そんな感じですね。 ぼやき先生:そういう抗体を「オプソニン抗体」というんだが、抗体が抗原に付くと起ることはもう一つあるんだな。 媚多眠氏:「補体」の働きですね。 迷ホラ吹き:ほたい!? 保健体育? 媚多眠氏:あのですね、中学生の期末試験の科目じゃないんですから・・・。 迷ホラ吹き:そうなんです。あれは中学1年の時でした。全く勉強しないで試験を受けて、ひどい目にあったことがある教科なんですよ。学年でビリから3番目。 媚多眠氏:惜しかったですね、もう少しでブービー賞。 迷ホラ吹き:やめて下さいよ。「ほたい」という言葉がトラウマになってるんですから。 ぼやき先生:だいたい、ブービーってのは「booby」と書いて、本来の意味はバカとか間抜けとか最下位という意味なんだな。 迷ホラ吹き:)*o*( 媚多眠氏:まあ、安心して下さい。ここで言う「ほたい」は、「補う体」と書いて「補体」です。 ぼやき先生:では、次回は「補体」の話からだな。 |