アセチルコエンザイムA-1 媚多眠氏:地球上の生物は、生きて行くためのエネルギーをATPという物質から得ていて、それを自分のからだで作っているわけですが、前回の話は理解出来ましたか? 迷ホラ吹き:ATPの錠剤を飲んでも、とても間に合わないほどたくさんのATPを作っているんですよね。 媚多眠氏:だから、細胞がATP合成代謝をスムーズに進ませる環境を、自分で整えることが大切なんです。 ぼやき先生:ATPという最終目的品から元をたどっているわけだが、大丈夫かな? 迷ホラ吹き:え〜っと、ミトコンドリアがエネルギー生産工場で、そこの電子伝達系でATPがたくさん作られるんですが、そのためには水素が必要で、その水素を得るためにクエン酸回路があって、クエン酸回路はアセチルコエンザイムAを欲しがっているという話だったような・・・。 ぼやき先生:うむ、よく復習出来ておる。 媚多眠氏:今回は、そのアセチルコエンザイムAがどこから来るのかって話ですね。 ぼやき先生:アセチルコエンザイムAはミトコンドリア内で作られるんだが、前に、三大栄養素のどれもがエネルギーになれるといったのを覚えているかな? 迷ホラ吹き:タンパク質・脂質・糖質が三大栄養素ですが、分解されて吸収されて、細胞に入る時はアミノ酸・脂肪酸・ブドウ糖になっているんですよね。 ぼやき先生:その3つがアセチルコエンザイムAの原料になるのさ。 媚多眠氏:解糖系ですね。 迷ホラ吹き:かいとうけい? 媚多眠氏:いくつかのアミノ酸や脂肪酸も、細胞内から、さらにミトコンドリアに入ってアセチルコエンザイムAになれるんですが、ブドウ糖は「ピルビン酸」に変えられてミトコンドリアに入るんです。 迷ホラ吹き:そのピルビン酸とやらがアセチルコエンザイムAになるんですか? ぼやき先生:うむ。その細胞質で行われるグルコースの代謝を、解糖系というんだな。 媚多眠氏:細胞質ということはミトコンドリアに入る前ということで、ブドウ糖のことをグルコースというんですよ。 迷ホラ吹き:はい。了解してます。 ぼやき先生:前回話したように、タンパク質、つまりアミノ酸はエネルギー源としてよりも重要な働きが多いんだな。 迷ホラ吹き:アセチルコエンザイムAの原料は、主に脂肪酸とピルビン酸だってことですね。 ぼやき先生:脂肪酸は、身体の脂肪組織に脂肪として蓄えられているだろう。 迷ホラ吹き:(お腹をつまみながら)ちょっと多めにあります。 |
アセチルコエンザイムA-2 ぼやき先生:うむ。ふつうに食事をとっていると、グルコース由来のアセチルコエンザイムAでクエン酸回路がまわるんだな。 媚多眠氏:つまり、グルコースからのピルビン酸から、ということですね。 迷ホラ吹き:脂肪は飢饉の時の蓄えってことですかね。 媚多眠氏:体脂肪を減らすための運動は、長く続けねばならないことが理解出来るんじゃないでしょうか。 ぼやき先生:その解糖系では、ピルビン酸を作る過程で1分子のグルコースからたった2分子とはいえATPが作られるんだな。 迷ホラ吹き:2分子のATP? 媚多眠氏:クエン酸回路と電子伝達系の共同作業では、36分子のATPが作られるんです。 迷ホラ吹き:18倍! ぼやき先生:ただし、それは好気的条件下で、ということなんだな。 迷ホラ吹き:好気的? ぼやき先生:電子伝達系によるATPの合成には酸素が必須だ、ということを思い出してもらいたいところさ。 迷ホラ吹き:なるほど。そんな話がありましたっけ。でも、・・・ってことは、解糖系は・・・? ぼやき先生:うむ、嫌気的条件下、つまり酸素なしの状態でも解糖系はATPを作れるということなんだな。 媚多眠氏:有酸素運動、無酸素運動というのを聞いたことがあるんじゃないですか? 迷ホラ吹き:あります。 媚多眠氏:さっき、体脂肪を減らす運動は長く続けなくては、なんて言いましたが、それは有酸素運動ですね。 迷ホラ吹き:有酸素運動っていうと、ウオーキングやジョギングですね。 媚多眠氏:そうですね。それに対して無酸素運動は、いわゆる筋力トレーニングです。 迷ホラ吹き:ついやり過ぎてあちこちからだを痛めちゃうんで、妻に呆れられてるんです、トホホ・・・。 ぼやき先生:「年寄の冷や水」ということわざを差し上げようかな。 迷ホラ吹き:ちぇっ、先生に言われたくないやい。 ぼやき先生:ワッハッハ・・・、年をとると食が細くなり食事からの水分摂取が少なくなるので、1時間おきにコップ一杯の水を飲むと良い、というのは三石巌の言葉なんだな。 迷ホラ吹き:な〜るほど、それが「年寄の冷や水」の意味だったんだ。 媚多眠氏:そんなわけないでしょ! |
アセチルコエンザイムA-3 ぼやき先生:ワッハッハ・・・。 迷ホラ吹き:あります! ぼやき先生:無酸素状態の解糖系でつくられたピルビン酸は、ミトコンドリアに入ることなく乳酸に変わるんだ。 迷ホラ吹き:乳酸は疲労物質だって聞いたことがあります。 媚多眠氏:でも、数年前から乳酸は疲労物質ではないしコリや筋肉痛の原因物質でもない、という話があるようですね。 ぼやき先生:血液中に排出された乳酸は、別の細胞でピルビン酸に戻されてエネルギー代謝に入るから疲労物質ではないというんだな。 迷ホラ吹き:んじゃ、疲労物質はなんですか? ぼやき先生:血流が悪くなることによってたまる二酸化炭素じゃないかというんだが、はっきりとは分からん。 媚多眠氏:肩こりが揉んで気持ち良いのは、細胞内にたまった乳酸が血液中に放出されるからだと聞いたこともありますが・・・。 ぼやき先生:細胞膜が酸化して透過性が悪くなっていれば、そうこともありそうだな。 媚多眠氏:ビタミンEやイチョウ・フラボノイドが肩こりに効く理由としても、おかしくないですね。 ぼやき先生:ビタミンEは細胞膜に挟まっているし、イチョウ・フラボノイドは細胞膜にへばりつくというからな。 迷ホラ吹き:挟まったりへばりついて何してるんですか? ぼやき先生:身代わりになるのさ。 迷ホラ吹き:・・・! ラジカル連鎖反応の話を思い出しました。 媚多眠氏:よくぞ思い出してくれました。 ぼやき先生:さて、筋肉には赤いものと白いものがあるなんてのを御存知かな? 迷ホラ吹き:聞いたことありますよ。 ぼやき先生:では、遅筋と速筋も知っているかな? 迷ホラ吹き:持久力と瞬発力の筋肉でしょ。 媚多眠氏:遅筋が赤い筋肉で、速筋が白い筋肉です。 迷ホラ吹き:なるほど、そういうことか。 ぼやき先生:有酸素運動で鍛えられるのが赤い遅筋で、無酸素運動で鍛えられるのが白い速筋だというのは理解出来るかな? 迷ホラ吹き:酸素を使ってたくさんのATPを生み出して働くのは、赤い筋肉だってことですね。 ぼやき先生:うむ。 迷ホラ吹き:赤い筋肉って、血液の色ですか? |
アセチルコエンザイムA-4 媚多眠氏:どうして、そう思うんですか? 迷ホラ吹き:酸素を使うってことは、酸素を運ぶ赤血球の色かなって思ったんですよ。 ぼやき先生:考え方は間違っておらん。 媚多眠氏:遅筋の赤は、主にミオグロビンの色ですね。 迷ホラ吹き:ミオグロビン? ヘモグロビンなら聞いたことあります。 媚多眠氏:ヘモグロビンが酸素を運ぶ赤血球の色ですね。 ぼやき先生:ミオグロビンは酸素を貯蔵する筋肉中のタンパク質なんだな。ミオは筋肉といった意味で、グロビンは球状タンパクさ。 媚多眠氏:さて、エネルギー通貨のATPを作るのにアセチルコエンザイムAが必要で、何から作られるかが分かったと思いますが、私たちはなぜ酸素を必要とするかも理解出来たんじゃないでしょうか? 迷ホラ吹き:たくさんのATPが欲しいからですね。 ぼやき先生:前に「生命の実体は代謝だ」なんて言ったことがあるが、さらに煎じ詰めると、生きているということは大量のエネルギーを取り出して消費するということなんだな。 迷ホラ吹き:酸素がない時、クエン酸回路の反応はどうなるんですか? 媚多眠氏:解糖系は酸素が存在しなくても反応は進むんですが、クエン酸回路の反応は進みませんね。 ぼやき先生:電子伝達系の反応の最後に酸素が必要なんだ。 迷ホラ吹き:アセチルコエンザイムAの元になる栄養があっても、酸素がなければエネルギーを得ることが出来ないってことか。 ぼやき先生:われわれは、ひとえにエネルギー作りのために呼吸をしているということなのさ。 媚多眠氏:空気を肺に吸い込んでガス交換するのを肺呼吸とか外呼吸、エネルギー作りの時のガス交換を細胞呼吸とか内呼吸というんですよ。 迷ホラ吹き:ガス交換ってのは、酸素を取り込んで二酸化炭素を出すってことですか? ぼやき先生:うむ、どちらのガス交換もそういうことだな。 媚多眠氏:つまり、酸素を利用することによってたくさんのATPを得られるんですが、そのエネルギーを使えば使うほど活性酸素の害も増えるということですね。 ぼやき先生:地球上に、光合成によって酸素をまき散らす生物が登場してからというもの、生物の進化の歴史は、酸素をてなづけ酸素障害を減らし、いかに有効利用するかの長い戦いだったってことさ。 迷ホラ吹き:原子力発電を思い出しましたよ。 ぼやき先生:原子力をてなづけるには、まだまだ長い年月が必要だということは想像に難くないだろう。 |