自分で作るコレステロール-1 媚多眠氏:さて、悪者扱いされるコレステロールの本当の働きですが、前回の復習は大丈夫でしょうね。 迷ホラ吹き:まかしてください。身体にとって、とても大切なのがコレステロールなんですから。 媚多眠氏:うーん、心強い返事ですね。 迷ホラ吹き:1. 細胞膜の材料になる。 2. ホルモンの原料になる。 3. 胆汁になる。 媚多眠氏:いいぞ! 迷ホラ吹き:しかも、食べるコレステロールの何倍かの量を、自分の身体で作っているんですよね。タマゴ2〜3個のコレステロールの量なんか自分で作っている量に比べれば、ドーッテコトありません!…よ…ね。 ぼやき先生:そう、その通りだから、最後まで自信を持って言ってくれ。コレステロールを食べると、肝臓はその分、自分で作らなくていいので負担が軽くなるともいえるんだ。 迷ホラ吹き:なるほど、そういうことか。 ぼやき先生:HDLで回収された余分のコレステロールは、肝臓で『胆汁酸』に変えられ『レシチン』と混ぜ合わせられる。さらに、余ったコレステロールをそこにぶち込むってわけさ。この時『タウリン』だ『グリシン』だと、アミノ酸が関係するんだが、ややこしくなるのでやめておこう。ただ、これらアミノ酸を含むタンパク質が大切だってことは押さえておいてくれ。 媚多眠氏:タウリンとグリシンはともかく『レシチン』の説明をお願いします。 迷ホラ吹き:レシチンって、聞いたことはありますね。 媚多眠氏:『やせ薬』として売られたこともありますからね。 迷ホラ吹き:あっ、そうかぁ。 媚多眠氏:レシチンのチンは『THIN』と書いて『やせた』って意味があるんです。 迷ホラ吹き:へえー。 媚多眠氏:でも、ここではその話はおいといて、基本的な話を先生にお願いします。 ぼやき先生:レシチンという名前は通っていても、それが何かは知らんという人は多いからな。 媚多眠氏:そうですね。 ぼやき先生:コレステロールが細胞膜の材料になるってことは重要なんだが、細胞膜で圧倒的に多いのは『リン脂質』という柔らかいアブラなんだな。 媚多眠氏:細胞膜の主成分として『リン脂質』は重要だってことです。 迷ホラ吹き:はいはい、リ・ン・シ・シ・ツですね。 ぼやき先生:その細胞膜のリン脂質は、大部分がレシチンなんだな。 迷ホラ吹き:じゃあ、レシチンってのはリン脂質の一つってことですか? 媚多眠氏:そういうことになりますね。 |
自分で作るコレステロール-2 ぼやき先生:タマゴや大豆に多く含まれるレシチンは、食用かつ消化可能な界面活性剤といわれ、アブラを乳化するのにも利用されるんだ。ところで、『胆石』ってのを聞いたことはあるかな? 迷ホラ吹き:あるある、ありますよ。すご〜く痛いんですってね。 ぼやき先生:『胆のう』にためておいた胆汁の中にできた石が胆石なんだが、これはレシチンが足りなくてコレステロールの固まったものなんだな。 迷ホラ吹き:レシチンが足りなくてってことは、レシチンがたっぷりあれば胆石にならないってことですか? 媚多眠氏:その確率が高いってことですね。 迷ホラ吹き:お医者様は教えてくれますか? 媚多眠氏:栄養に関することですからね、自分で勉強しなくちゃダメでしょうね。お医者様に頼ってばかりではダメってことですよ。 ぼやき先生:レシチンの正式名称は『フォスファチジルコリン』という。 迷ホラ吹き:エッ? フォス…なんですって? 媚多眠氏:フォスファチジル・コリン! 変なカタカナ覚えるの、得意なんでしょう? ぼやき先生:まあ、そうイジメなくてもよかろう。『コリン・リン脂質』という言い方もあるんだ。 迷ホラ吹き:コリン・リン脂質ね。うん、これは覚えやすい。 ぼやき先生:しかも、リン脂質にコリンが付いているということで、意味も分かりやすい。 迷ホラ吹き:なるほど。でも、『コリン』って何ですか? ぼやき先生:ビタミンに近い栄養物質で結構大事なものなんだが、ここではとりあえずそういう名前の物質だ、とだけ覚えておいてくれ。 媚多眠氏:他に『イノシトール・リン脂質』とか『セリン・リン脂質』、『エタノールアミン・リン脂質』などもあります。 ぼやき先生:さて、レシチンによって固まることなく捨てられるコレステロールは、胆汁として十二指腸へ出ていくわけだが、何とその99%は小腸から再吸収されるというんだな。 迷ホラ吹き:せっかく捨てたのに、また吸収しちゃうんですか。 ぼやき先生:肝臓から腸、腸から肝臓というふうに循環するので『腸肝循環』というんだがね、結局コレステロールは必要なものだから無駄なく再利用しようという、生体の合目的性によるんだな。 媚多眠氏:そこには、胆汁として捨てたもののほかに、胃や腸の粘膜のはがれ落ちた細胞に含まれるコレステロールや、食べ物からくるものが含まれるわけです。 迷ホラ吹き:なーるへそ。それで、胆汁として捨てたものやはがれ落ちた細胞に含まれるコレステロールの量に比べると、食べ物からくるコレステロールの量はたいしたことないってことなんですね。 |
自分で作るコレステロール-3 ぼやき先生:その通り。なかなか飲み込みの早い優秀な生徒だ。 迷ホラ吹き:えへへ、ガンコなイシアタマじゃないですからね。 ぼやき先生:んん? その目つきと妙な言い方が気になるな。 媚多眠氏:ウオホン! 全然気にしないでください。それより、再吸収で肝臓の負担が軽くなるんですよね。 ぼやき先生:ああ? ああ、そうだ。再吸収の量によって、肝臓で合成されるコレステロールの量は調節されるので、多く吸収したときは作る量を減らせばいいってことになる。コレステロールの合成には、けっこう手間ヒマかかるからな。 迷ホラ吹き:手間ヒマかかる? ぼやき先生:体内でのコレステロールの合成経路には、化学反応の段階がいくつもあって、いっぱいエネルギーを使うんだな。エネルギーだけじゃない。タンパク質やらビタミンやら栄養物質も利用される。つまり体内では、減るってことなんだがね。 迷ホラ吹き:身体でコレステロールを作るときに栄養が減るんですか。 媚多眠氏:私たちは栄養を使って生きているんじゃないですか。 迷ホラ吹き:そりゃ、そうですが。 ぼやき先生:よけいに栄養が減るってことなんだが、それだけじゃない。『活性酸素』の発生もあるんだ。 迷ホラ吹き:カッセイ・サンソ? ぼやき先生:特別に酸化力の強い酸素のことなんだが、詳しくは後で説明しよう。 媚多眠氏:とにかく、コレステロールを肝臓で作るには手間ヒマかかるということですね。 ぼやき先生:そう、だから人間などの雑食動物は、食べたコレステロールの量によって体内で作るコレステロールの量を調節しているわけなんだな。 媚多眠氏:草食動物は、必要量の全部が自家生産だから大変なんですよ。 迷ホラ吹き:ウサギさんのことですね。 媚多眠氏:ウサギが出てきたところで、コレステロールの怖い話をしていただきましょうか。 迷ホラ吹き:えっ! やっぱりコレステロールは怖いんですか? 媚多眠氏:それは、話を聞いてのお楽しみ。 ぼやき先生:迷ホラ吹きさんは、前に、コレステロールと聞いたらすぐに動脈硬化といったんだが、動脈硬化をおこしている血管を調べてみると、そこには実際、ちゃんとコレステロールがたまっているんだな。 迷ホラ吹き:動脈硬化は、やっぱりコレステロールが原因だったんですか。 ぼやき先生:そう考えた人が多かったということだ。 迷ホラ吹き:ふ〜ん。 |
自分で作るコレステロール-4 ぼやき先生:そして、そのことを後押しすることになる実験を、ロシアのアニチコフがしたんだ。今から60年以上前の話なんだがね。彼は、ウサギにタマゴを食べさせてみたんだな。すると、見事に血中コレステロール値が上がったってわけさ。 媚多眠氏:そこで、タマゴを食べるとコレステロールが上がって動脈硬化になる、という話が広まったわけです。 ぼやき先生:ところが、ネズミや犬ではタマゴを食べさせてもコレステロール値は上がらないんだな。どうしてか、分かるかな? 媚多眠氏:ヒントは、ネズミや犬は何でも食べる雑食動物だってことです。 迷ホラ吹き:ええ、ええ、ちゃんと話を聞いてましたよ。雑食動物は食べたコレステロールによって、身体で作るコレステロールの量を調節しているってことでしょう。上がるわけないですよね。 ぼやき先生:そうだな。そして、草食動物のコレステロールが100%自前だってことは、食べるエサにはないってことだ。草食動物のエサは植物だから、コレステロールなどないのは当然だろう。 迷ホラ吹き:トーゼンです。 ぼやき先生:そういう動物にコレステロールの入ったエサを与えたのが、アニチコフの実験だったわけなんだな。無理があるとは思わんかい? 媚多眠氏:今では専門家で、タマゴでコレステロールが上がるなんていう人はいないのに、まだそれを信じている人が多いという嘆かわしさです。 迷ホラ吹き:よく分かりましたけど、それでは、どうしてコレステロールが高くなるんですか? ぼやき先生:ウム、これからその話をしようとしたところだ。LDLやHDLを覚えているかな? 迷ホラ吹き:おぼえてますとも。LDLは肝臓で作ったコレステロールを身体中の細胞に届けるもので、HDLは逆に細胞で余ったコレステロールを肝臓に戻すものでしょう。確か『リポタンパク』とかいうタンパク質でしたよね。 ぼやき先生:よかろう。そのうちのHDLで肝臓に運ばれたコレステロールは胆汁酸にかえて処理しているって話なんだが、この代謝がうまくいかないと、また血中に逆戻りってわけさ。それが肝臓から出ていくときはLDLだったろう。これが増えるってわけだ。それから、ビタミンCが足りてないと胆汁酸にかえる代謝はうまくいかないってこともわかっている。 迷ホラ吹き:またしてもCですか。要するにビタミンCが足りてないと、コレステロールが胆汁酸にかわらないため、コレステロール値が上がるってことですか? ぼやき先生:そう。それから、胆石の話の中でレシチンが出てきたが、実はビタミンEが足りなくても石になりやすいっていう話もある。 迷ホラ吹き:今度はビタミンEですか。 ぼやき先生:身体が健康を維持するための調節には、いろいろな栄養素がからんでいるってことなんだが、特にビタミンは必要量の個体差が大きいってことを知らないといかん。 媚多眠氏:栄養は『バランス』ではダメなんですね。 |