獲得免疫-自己の非自己化-1 媚多眠氏:さて、今回は記憶に残る獲得免疫の話を伺う予定です。 迷ホラ吹き:僕の記憶にも残って欲しいものです。 ぼやき先生:全くだ。 迷ホラ吹き:センセ! そんなに素早く賛同しなくてもイイのに・・・。 媚多眠氏:あはは・・・。実際、登場人物が多いというか、覚えなければならない名前が多いので頑張りましょう。 迷ホラ吹き:自然免疫に出てくるものは、ほとんど知っているものばかりでしたがねぇ。クシャミ鼻水とか涙とか・・・。 媚多眠氏:基本的に自然免疫は、体内への侵入を防ぐためのものですから実感できるものも多いということですね。 ぼやき先生:通常、何気なく働いている『自然免疫系』で防ぎきれなくて体内への異物の侵入を許し、マクロファージやNK細胞だけで対応できなくなった場合に『獲得免疫系』が働くわけなんだな。そして、一般に『免疫』と言った時は、この獲得免疫のことを言っている場合が多いってことさ。 媚多眠氏:免疫の話で必ず出てくる「抗体」とか「リンパ球」は獲得免疫で大活躍するものですね。 ぼやき先生:さっき媚多眠さんが登場人物が多いと言ったが、その名前とか性格などが分からなければ小説なんかちっとも面白くないだろう? 迷ホラ吹き:そうそう、イワンの馬鹿だけじゃなくラスコーリニコフなんていう長くて覚えにくい名前が出てくる「カラマーゾフの兄弟」は、登場人物の系図を書いてそれを見ながら読まないとサッパリ分かりませんでしたっけ。 媚多眠氏:そりゃ、分からないわけだ。 迷ホラ吹き:)*o*( ぼやき先生:それと同じで、免疫に関しても、その細胞や物質の名前と役割を覚えないと始まらないってことなんだな。 迷ホラ吹き:でも、まあ、その、変なカタカナを覚えるのは得意ですから・・・。 ぼやき先生:けっこう漢字も混じっているんだがね。 迷ホラ吹き:なおさらけっこうケケロッコウ! 媚多眠氏:なんですか、それは? 迷ホラ吹き:今年は僕の年、酉年なんですよ。 媚多眠氏:・・・先生、準備はよろしいようです。 |
獲得免疫-自己の非自己化-2 ぼやき先生:まず大まかな流れを話しておこう。 迷ホラ吹き:ケケロッコウ! ぼやき先生:自然免疫で防ぎきれずに侵入してきた病原性物質は、まず「抗原提示細胞」に捕えれ、その情報を「T細胞」に伝えるんだ。 迷ホラ吹き:「こうげん・ていじ・さいほう」に「T・さいほう」? ぼやき先生:その情報を受けたT細胞は、その情報を「B細胞」に伝え「抗体」を作るように指令を出すんだな。 迷ホラ吹き:今度は「Bさいほう」に「こうたい」! ぼやき先生:その抗体こそ、獲得免疫の重要な武器といえるんだ。 迷ホラ吹き:「抗原」ってのが敵ですよね? 媚多眠氏:ここでの話ではそう解釈して間違いないと思います。 ぼやき先生:細菌やウィルス、食物、空気中の塵、よく問題になる花粉など、いろいろなものが抗原になるんだな。 迷ホラ吹き:「抗原提示細胞」、「T細胞」に「B細胞」ってのは? ぼやき先生:みな白血球の仲間さ。 媚多眠氏:「抗原提示細胞」「T細胞」「B細胞」については、やはり最もポピュラーな「カゼ」に絡めてお話下されば分かり易いんじゃないでしょうか。 迷ホラ吹き:そう言えばカゼはウイルスが原因なんですよね。で、カゼが「ほっといても治る」ってのは「獲得免疫」が大きく関係している、なんて言ってましたっけネ。 ぼやき先生:そうだな。しかし、その前に我々の体は60兆もの細胞で出来ている多細胞生物だ、ということを再認識しなければいかん。 迷ホラ吹き:先生が数えたわけじゃないって言ってましたけど、60兆という数字は覚えていますよ。何の話の時に出てきたかは忘れましたけど・・・。 媚多眠氏:「ホメオスタシス」つまり、身体の「内部環境の恒常性」の話の時ですね。 迷ホラ吹き:ああ〜、そうだ。頑固に調節されている身体の中の状態が、ストレスで乱されるって話でしたね。しかも活性酸素がずっと出る。 ぼやき先生:それは良いことを思い出してくれた。その調節というのが大事なことなんだな。多細胞生物というのは、細胞間で密接な連絡を取りあって自分の働きを調節しあっている、ということは分かるだろう? 迷ホラ吹き:分かりますとも。ガンの話の時にも考えましたからね。ショッキングな細胞の自殺とか・・・。 媚多眠氏:生きるために死ぬアポトーシスですね。 ぼやき先生:うむ。この多細胞生物が、生きるために細胞同士で行なっている最も基本的で大切なことは、「自己」と「非自己」を見分けることなんだな。 迷ホラ吹き:「じこ」と「ひじこ」? 媚多眠氏:要するに「自分と自分でないもの」ということですよ。 ぼやき先生:この自己と非自己を区別する仕組みが免疫の基本なんだ。 迷ホラ吹き:そんな区別、普通に考えれば簡単な気もしますが・・・。 媚多眠氏:人間社会での自分と他人だったらそうですが、細胞社会の出来事ですからね。自己を非自己化してから見分けるなんていう、驚くような話がいっぱいですよ。 |
獲得免疫-自己の非自己化-3 ぼやき先生:とにかく「自己」すなわち自分と、「非自己」すなわち自分でないものとを区別することから、カゼのウイルスをも撃退しようとするのが免疫の仕組みなんだ。 迷ホラ吹き:自己の非自己化って、僕はもう僕じゃないよ〜ってなるの? ワケ分かんなくなりそう。 ぼやき先生:分かるように話すから慌てなさんな。 迷ホラ吹き:役割分担? 媚多眠氏:同じものが増える「分裂」と違って、ビタミンAが重要に絡んでいる「分化」は細胞の性質が変わっていくということなんですよ。 迷ホラ吹き:と言いますと? 媚多眠氏:例えば肝臓の細胞、筋肉の細胞、皮膚の細胞など形や働きの違うものに変わっていくということです。 迷ホラ吹き:なるほど。 ぼやき先生:このとき、違う細胞に変わったといっても、自分の身体の細胞はどれも自分の細胞だろう。 迷ホラ吹き:当たり前じゃないっすか。 媚多眠氏:簡単に言ってくれますが、肝臓の細胞と筋肉の細胞はまったく違う形をしているんですよ。肝臓の細胞を比べる場合、自分の筋肉細胞と他人の肝細胞では他人の肝細胞の方が似ているんです。 迷ホラ吹き:ムムム・・・、じゃあ、自分か自分じゃないかはどこで見分けているんですか? ぼやき先生:それをこれから話そうとしているんじゃないか。 迷ホラ吹き:もしかしたら、何か目印でも付けているんじゃないですか? 媚多眠氏:え? 今、何と言いましたか? 迷ホラ吹き:すみません、冗談です。よく団体旅行なんかすると、他の団体と区別できるようにみんなで同じ色のリボンをつけたりするじゃないですか。細胞にリボンなんてついてる訳ないっすよね。 ぼやき先生:いいや、それがあながち間違いでもないんだな。 媚多眠氏:もちろん、本当にリボンが付いている訳ではありませんが、リボンにたとえると理解しやすいものが付いてるんですよね。 迷ホラ吹き:へぇ〜、それはおもしろい。 ぼやき先生:我々の身体の細胞のほとんどは、目印として「MHCクラスI」というタンパク質を持っているんだ。 迷ホラ吹き:「エムエッチシー・クラスいち」? もしかして、それがリボンですか? 媚多眠氏:そういうことですね。 |
獲得免疫-自己の非自己化-4 ぼやき先生:「MHC」は「major histocompatibility complex」の頭文字を取ったもので、日本語では「主要組織適合遺伝子複合体」という。 迷ホラ吹き:う〜〜〜わ! MHCでけっこうです。 ぼやき先生:このMHCは「クラスI」「クラスII」「クラスIII」の三つに分けられているんだが、“自分の身体の細胞”はほとんどどれも“自分の細胞”だという目印として「MHCクラスI」というタンパク質を持っている、ということなんだな。 迷ホラ吹き:とにかく、MHCクラスIが自分の目印のリボンだと考えればいいんですね? 媚多眠氏:色じゃなくて形ですよ。立体構造。 迷ホラ吹き:おお、形が大事だって話はよく出てきましたものね。 ぼやき先生:MHCクラスI分子の形は人によって全て違うんだ。細胞は、この形で自己と非自己を見分けているんだな。 媚多眠氏:付いているリボンの形で見分けているということですね。 迷ホラ吹き:な〜るほど。違う形のリボンを付けたヤツを見つけるとどうなるんですか? ぼやき先生:それが非自己ということで、非自己の細胞は「キラーT細胞」というリンパ球によって殺されてしまうのさ。 迷ホラ吹き:キラーT細胞! カッコイイ!! ぼやき先生:これは「細胞傷害性T細胞」ともいって、殺し屋みたいなものだ。 迷ホラ吹き:そのキラーT細胞がカゼのウイルスをやっつけてくれるんですね? 媚多眠氏:残念ながら、違います。 迷ホラ吹き:ありゃぁ・・・。 媚多眠氏:今、聞いたばかりじゃないですか。キラーT細胞は「非自己の細胞」を殺すのですよ。 ぼやき先生:ウイルスが自然免疫を突破して体内に入ると、「自己の細胞」に潜り込んで仲間を増やそうとするんだ。ウイルスは、自分だけでは増えることが出来ないからな。 迷ホラ吹き:それ、聞いたことありますです。 媚多眠氏:そこで、自分の細胞はどうなるかということですね。 ぼやき先生:ウイルスの感染した「自己の細胞」は、ウイルスの断片を自分のMHCクラスI分子にくっつけて助けを求めるんだな。 迷ホラ吹き:ウイルスの断片を自分のMHCクラスI分子にくっつけるって、どういうこと? 媚多眠氏:自己の目印であるリボンにゴミがくっつくようなものですよ。 迷ホラ吹き:自分だという目印が変わっちゃうってこと? 媚多眠氏:そうですね。 迷ホラ吹き:それが「僕はもう僕じゃないよ〜っ」てこと!? ぼやき先生:そう。それを「自己の非自己化」と言うんだ。 |